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探求のリベレイト!第四十三話「奮闘」

2013.11.16 15:24|探求のリベレイト!
探求のリベレイト!
Forty third Mission:“”  by R-YA&ふぇいすふる





 彼を見つけるのは非常に簡単なことだった。まぶしい橙色と、『それ』が纏う空気、そしてその挙動。そういったものを感知したならば、『それ』を彼と断定するのに十分であった。
ジンは高速で移動する橙色を視界にとらえた瞬間、口中に苦味が広がるのを感じた。この大規模戦闘の最前線、敵味方が入り乱れて戦う戦場で、ジンは一瞬だけ動きを止める。モニターの橙色が刹那に膨れ上がり、ジンは息をつく間もなく両方のトリガーを引いた。その橙色はレティクルに収まっている、ロックオンもされている。だが、ロングリニアライフルから射出された巨大な電磁加速弾頭は、ジンをあざ笑うかのように空を切った。
 当たらない。そう焦りを覚えた瞬間、目の前が橙色で染まった。警告音が甲高い叫びをあげる。オーディが音を発する。レバーとペダルを動かそうと手足に力が入る。ただし、それらは全てジンの意識外で行われたことだった。彼の意識を捉えて離さなかったのは、その橙色、懐かしく、しかし鮮やかな夕日の色である。
 その橙色の機体、《ファルカタMk-Ⅱ》と呼ばれる鋭いシルエットのアクトウォーカーは、両手にした大型ナイフを一閃した。《イヴォルタ》が保持していた左腕のロングリニアライフルが中途から二つに分断される。
 ジンは瞬間的に両腕のリニアライフルをパージした。ファルカタ・タイプの繰り出す左ナイフの突きを防ぐように《イヴォルタ》の右腕を突き出しながら、叫ぶ。
「ワークスっ!!」
 金属がこすれる嫌な音が響いて、気づけば《イヴォルタ》は後方へと吹き飛ばされていた。腹部に蹴りを食らったらしい。ジンは強い衝撃に呻きながらも機体を制御し、着陸させた。正面に視線を戻すと、橙色の機体が再び接近してくるさまが見えた。EIPBの戦闘モード表示が〈Close Combat〉に切り替わるのを横目で確認しながら、声にならない声を上げてペダルを踏み込む。左ナイフの大げさなほどの横薙ぎを間一髪でかわして着地し、予想していた本命の蹴りをバックステップで回避する。
 《ファルカタMk-Ⅱ》が両腕にナイフを構えているのに対して、《イヴォルタ》は丸腰であった。武器を構える余裕がない。下腕に取り付けられている粒子フューザーですら、間に合わないと感じていた。のろのろと武器を取り出していたのでは、彼の変幻自在な攻撃を躱しきることはできない。
 態勢を立て直した橙色の機体が接近する。お互いに一、二度ステップを踏んだところで、ファルカタ・タイプが仕掛けた。右のナイフの突き。ジンはすかさず右腕を突き出してそれを受け止めようとした。だが、その機体は突然身をひねってナイフを引っ込めた。力のかけどころを失った《イヴォルタ》の腕は、その勢いを殺せずに機体の上半身を慣性で大きく反らせた。ジンは急いで態勢を整えようとしたが、右腕を振り切ったモーメントでフレームが硬直し、一瞬の隙が生まれる。無防備な《イヴォルタ》を前に、ファルカタ・タイプが勢いよくナイフを振り下ろす。
「ッ!!」
 ジンはスイッチの一つをすぐさま押し込み、肩部粒子制御ブレードを起動させた。すかさず中央ペダルを踏むと、流体制御によって《イヴォルタ》が後方に弾き出される。ファルカタ・タイプの攻撃を間一髪で避けた。ジンは、橙色が小さくなるのを見て、ようやくパイロットスーツが汗でぐっしょりと濡れていることに気づく。顔をしかめると同時に、ひどく聞きなれた声が耳朶を打った。
『ハッハッハ!!最高だ…最高じゃないか、ジン!』
 それは、まぎれもなくワークス・オーウェンの声であった。無線越しでも、彼の声だとはっきりとわかる。だが、それだけだ。今のジンには、彼がなぜそこにいるのか、そして何を言っているのか、全く理解できなかった。憤りと困惑の入り混じった感情の行き場を失って、ジンは叫んだ。
「ワークス!なにを…何をやっているんだ、アンタは!?」
 《イヴォルタ》と《ファルカタMk-Ⅱ》は向き合いながら高速で移動した。《イヴォルタ》が背中からロケットランチャーを取り出して両腕に構え、腰部の一対のサブアームがサブマシンガン《キドニー》を構える。
『こっちにはマイ・スウィート・エンジェルがいる!俺の為に作られた最高の機体で、お前と、本気で戦闘ができる!』
「だから裏切ったって言うのか!?」
 ジンは怒りに任せてトリガーを引いた。オーディが《キドニー》を斉射して作った弾幕に、ロケット弾頭が高速で突入する。ワークスは近くにいたAM1にナイフを投げて機能を停止させると、それを掴む。次の瞬間、爆風が《ファルカタMk-Ⅱ》を包み込んだ。
 砂煙が晴れると、ぼろぼろになったAM1を放り捨てた橙色の機体が、《イヴォルタ》に向かって低空跳躍した。その手には、AM1から奪ったと思しきショットガンが握られている。ジンはペダルを踏み込んで機体を跳躍させた。流体制御で、《イヴォルタ》が、迫る《ファルカタMk-Ⅱ》に向かって滑空する。ショットガンの弾とロケット弾を追うように、高速で二機が交錯した。
『裏切ったのは悪いとは思ってるさ。でもそんなことはどうでもいい。俺はな、ジン、お前とこうして戦えるってことが、心の底から嬉しくてたまらねえんだよ!』
 着地。機体を反転させると、目の前には橙色の機体が迫っていた。その蹴りが《イヴォルタ》右腰部のサブアームをサブマシンガンごと吹き飛ばした。
「このッ!」
《イヴォルタ》が左肩を突き出すようにして、《ファルカタMk-Ⅱ》に猪突する。橙色の機体は身体を丸めて衝撃に耐えると、距離を取った。
『どうしたジン、お前は特別なんだろ? だったら倒して見せろ、この、最強でイケメンでパーフェクトな天才パイロット、ワークス・オーウェン様をな!!』
「黙れ!」
 ジンは全身を声にして叫んだ。なんだというのだ、この男は。あの颯爽とした姿はどこへ消えた?格好の付いた台詞はどうした?今のこいつは、完全に狂ったやつだ。この男は変わってしまったのだ。

そう、割り切りたかった。

しかし、ジンにはわかっていたのだ。彼が自分の良く知るワークスであることが。全く変わっていないことが。それがわかってしまうから、余計にむなしかった。
 どうせなら、死んでいてほしかった。こうして戦うこともなければ、虚しさに気を沈めることもない。同時に、そう感じた自分が恐ろしかった。一時でも慕った人間が、師と仰いだ誰かが生きていたのに、喜べない自分。
 ただ、ジンがどう思おうと、現実は変わらない。厳然として、自分が師と仰いだあの日のままのワークスが、相対する「敵」であるという事実はそこにある。ならば、決着を付けなければならない。迷いは捨てる。思い出も、一時の感情も、そして、彼の顔も。戦うしかないのだから。自分の大切なものを、そして自分を、すぐにでも崩れてしまいそうな自分という存在を、守るために。
 ジンは咆哮して、ペダルを踏み込んだ。ショットガンを構える《ファルカタMk-Ⅱ》に向けてロケットランチャーを斉射しながら、純白の機体が砂煙を上げて猛進する。弾切れを起こしたロケットランチャーをパージすると、ジンはタッチパネルから両腕の武装にクライス粒子コーティングロングソードを選択した。《イヴォルタ》背部のウィング状のパーツが瞬時に展開して、ソードのグリップが現れる。《イヴォルタ》の腕が伸びてそれを掴み、マニピュレーターにマウントした。
 砂煙を突き破って、《ファルカタMk-Ⅱ》が迫りくる。ショットガンの散弾をふわりと跳躍して避け、上空から橙色の機体に左ソードで斬りかかる。敵機は半身をずらしてそれを軽々と避けると、走りこんだ勢いで左ナイフの突きを繰り出した。ジンはレバーを引いて右ソードでそれを受ける。オーディの操作で左腰部のサブマシンガンが火を噴き、橙色の機体は離脱した。《イヴォルタ》はサブマシンガンで弾幕を張りながら《ファルカタMk-Ⅱ》を追う。
『ざまあ見やがれ!』
 そういう声がスピーカーから聞こえたかと思うと、瞬時に反転した橙色の機体が投げたナイフが左腰部のサブアームを切り裂いた。だが、敵機は停止している。ジンはペダルを踏み込んで橙色の機体に急接近した。右ソードを袈裟懸けに振り下ろす。続いて左ソードの突き。さらに、踏み込んで右ソードを繰り出す。
 《ファルカタMk-Ⅱ》はこれらの攻撃を最小限の動きで躱し、ショットガンを投げつけた。それに反応したジンは即座に左ソードでショットガンを叩き斬る。その隙に、《ファルカタMk-Ⅱ》は腹部横のラックからナイフを二本取出し、《イヴォルタ》の右側に回り込んだ。
 危険に気づいたジンは右ソードを牽制のために振ったが、橙色の機体は両腕のナイフでそれを抑え込むと、膝蹴りでソードを中途からヘシ折った。
「くそっ!」
 中央ペダルを踏み込んで流体制御を使いながら後退。だが、ファルカタ・タイプも速い。《ファルカタMk-Ⅱ》は即座に《イヴォルタ》に接近すると、右足を振り上げて、純白の機体の左マニピュレーターを正確に打ち据えた。システム保護のためにショックアブゾーバーを起動させた《イヴォルタ》の左手は、グリップ能力を衝撃吸収に回したせいでクライスソードを取り落としてしまう。さらに、ファルカタ・タイプの右ナイフの突きが《イヴォルタ》を襲う。辛うじて右腕の短くなったソードでそれを防ぐ。
「ソードの粒子供給を増やせ!」
 オーディーにそう命じると、ナイフを引かれないように、敵機のナイフを保持する腕の間接可動域と逆方向に力をかける。すぐに粒子コーティングソードが発光して、抑え込んだナイフをバターのように切り裂いた。
「これでっ!」
 《イヴォルタ》は左拳を握りこむと、ファルカタ・タイプの顔面めがけてストレートを繰り出した。橙色の機体はそれを避けると、後方に跳躍して距離を取る。『やれるじゃねえか!』という楽しそうな声とともに、《ファルカタMk-Ⅱ》がたった今切り裂かれた右腕のナイフを投げ捨てた。
 ジンは短く息をつくと、機体に右腕のソードを捨てさせ、タッチパネルから一本のブレードを呼び出す。《デカルトブレードⅢ》――オミニッド三型に搭載した《デカルトブレードⅡ》の発展型。両手用として生まれ変わったこのブレードは、粒子発生量も切断力も以前のタイプより大幅に増加している。搭載された各種センサーもタフになっており、《イヴォルタ》本体との連携で最高の精度の斬撃を繰り出せる。
 ワークスの機体が、腰部ウェポンラックからナイフをさらに取出し、構えた。二人は既に、お互いの部隊から完全に孤立している。そこは窪地のような場所だった。アルカヘストとUNOATは、ジンの背後、UNOAT側本拠点寄りを前線として戦っている。逆に意味をとれば、ジンとワークスは、アルカヘスト拠点に最も近い場所で戦闘している兵ということだ。
『こいよ、ジン!お前の本気、見せてみろ!』
「やってやるさ…!」
 フットペダルを踏み込む。《イヴォルタ》が大地を蹴り、大剣を携えた天使の如く飛翔する。それに呼応するように、狼や猟犬を想起させる動きでワークス機が駆け出す。オーディが橙色の機体をロックオンすると、マーカーがモニター上に現れた。スティックを傾け、ペダルをさらに踏み込む。急降下、ワークス機がモニター上にアップになる。ジンはスティックを握りなおした。接触まで、あと三秒、二、一――。
 白と橙色が交錯する。砲撃が遠くこだまする戦場に、鋭い金属音が響き渡った。
「!?」
 飛び散った金属塊が、《イヴォルタ》の右肩部粒子制御ユニットだと気づくのには一瞬の時間がかかった。コックピット内にアラームが鳴り、右モニターに右肩のユニットを失った《イヴォルタ》のCG図が映し出される。正面モニターには、〈修復不能〉の文字が躍った。
「くそっ!」
 機体を即座に反転させる。まだ橙色の機体は背を向けたままだ。ペダルを踏み込むと、《イヴォルタ》が駆けた。敵機がこちらを向く。その頭部の青く鋭いセンサーが獣のごとき眼差しを向ける。その冷たさに腹が立った。自分があの敵に恐怖を感じていることが、無性に癇に障った。
「うらあああッ!!」
 スティックを押し出してトリガーを引く。スティックのマニュアル入力により、デカルトブレードが鋭く振られる。
「このっ!このぉッ!!」
 二、三度それを振り回すと、橙色の機体がすっと《イヴォルタ》の懐に潜るのが見えた。ジンはハッとしてスティックを引く。ガツン、と金属同士がぶつかる音が聞こえ、正面モニターの文字が、コックピット横の脇腹の装甲が剥がされたことをジンに伝えた。
「ッ!」
 スティックのボタンを押しこんで、即座に左腕をブレードのグリップから引きはがす。敵が懐から脱出する前に、スティック操作で橙色の機体の左肩を掴んだ。上昇ペダルと右スティック、前進ペダルを連続入力して、身動きが取れない《ファルカタMk-Ⅱ》に跳び蹴りを食らわせる。
『…ッハッハ!!!』
 吹き飛ばされながらもうまく衝撃を緩和したワークス機が、《イヴォルタ》を見上げる。《イヴォルタ》は、両手にブレードを構え、橙色の機体に走り迫った。力強く振り下ろされた一撃を間一髪で躱しワークス機が攻勢に出る。
 未だに、彼らの僚機は遥か後方で戦闘を繰り広げ、戦闘の轟音を遠く響かせていた。


    *


「TD-04、ナート軍曹到着しました!援護します!」
 オープン回線にそう叫ぶと、エティはスロットルを開いてペダルを踏み込んだ。科学燃料とクライス粒子の混合物質が轟音を上げて吹き荒れ、彼の愛機、《アキーア》は加速した。モニターに映るのは、敵《トゥルス》三小隊、味方AM1五小隊、そしてランス装備の《ファルカタ》一機が織りなす大規模戦場だ。比較的開けた、大小の岩の転がる砂の大地で、中央の障害物が少ない場所を挟んで銃撃戦を繰り広げている。《ファルカタ》がいることによって、中央地から国連軍が追い出されるような状況となっていた。
 エティはタッチパネルから腰部電磁加速砲を左第一トリガーに呼び出し、三点バーストに設定した。第二トリガーには、両肩部に搭載した、六連装照準線ビームライディング誘導ミサイルを呼び出す。右第一トリガーに設定したのは、両腕で構える45mm試作アサルトライフルだ。単射式に設定されたそれは、AW装備には似つかわしくない大口径と高い初速度を持ち、AWを一撃で粉砕するに充分な威力を秘めている。これは、マイ・クロカワによって施された機体の全面改修によって得られた《アキーア》の反動処理性能とパワーでしか扱えない代物だ。
 高解像度モニターに表示された敵機を睨み、エティはペダルとスティックを操作した。重武装の《アキーア》が戦場の真っただ中、中央地に躍り出て、周囲の敵機の視線を一身に吸収する。砂煙を上げたブルーパールの機体に、三機の《トゥルス》が銃口を向けた。
 エティは45mmライフルの正確な一射で一機を弾き飛ばし、素早く後退しながら電磁加速砲を三点バースト発射して弾幕を張った。撃破寸前まで追い詰められていた前衛の国連AM1小隊がその隙に後退し、大型シールドを構えたガーディアン・タイプのAM1がそのカバーに入る。
 逃げ遅れたAM1を狙って二機のトゥルスが飛び出すのを遠方に確認したエティは、45mmライフルをフルオートに設定して、二秒間トリガーを押し込んだ。ロックオン警報が鳴り、機体を跳躍させて敵マシンキャノンの火線を避ける。先ほどの方角を一瞥すると、放物線を描いた45mm弾の群れが一機の《トゥルス》を粉砕したのが見えた。すかさずガーディアン・タイプが飛び出し、手にしたHEATランスでもう一機を爆散させるのを確認すると、エティは正面に視線を戻した。狙いは、高速で動き回る、群青色で鋭いシルエットの《ファルカタ》だ。
「すっこんでな、クソ野郎!」
 叫ぶと同時に、スティックで精密に狙いをつけながら左第二トリガーを引き、両肩各三機、あわせて六機の誘導ミサイルを発射した。その隙を狙ってダガーを持って接近していたアルカヘストの《トゥルス》を45mmライフルのフルオート射撃で解体し、スロットルを開いて加速。誘導ミサイルを巧妙に躱した《ファルカタ》に、フルオートの電磁加速弾頭を叩きつける。エティの精密な予測射撃を瞬発力だけで躱し、《ファルカタ》が肩部ロケットスラスターを焚いて高速で《アキーア》に迫った。予想以上に速い。
「だったらさ!」
 エティは腰部電磁加速砲の全弾を《ファルカタ》の方向へ殴りつけるようにばら撒き、タッチパネル操作で爆砕ボルトを起動させた。電磁加速砲の留め具が弾け飛び、長砲身の武装が強制排除される。ペダルを踏み込み、ランダムな軌道で全弾を回避した《ファルカタ》に正面から突っ込む。《ファルカタ》がランスを突き出した。エティはペダルを踏んで急激に機体を減速させる。強大なGが襲い来るのを丁重に無視して、KEスラスター噴射で機体を強引に横に振った。瞬時にそれに気づいた《ファルカタ》はランスを引き、回避機動に移る。その時には、エティは《ファルカタ》をロックオンし、右トリガーで45mmライフルを斉射していた。急激な旋回・加減速によりがたがたと震える《アキーア》の銃口から放たれた弾は、しかし正確に《ファルカタ》へと吸い込まれていく。勝った。そう思った瞬間、《アキーア》と《ファルカタ》の間に何者かが割り込んだ。驚く間もなく、エティは全力でペダルを踏んで、スティックを引いた。敏感に反応した機体のコンピュータとMRシステムが、《アキーア》を急速に後方へと弾き出す。
 割り込んだ機体は、別の《ファルカタ》であった。ガーディアン・タイプのAM1が装備するのと同じ大型シールドを、両肩、背面に背負った重装甲タイプ。
 エティは舌打ちして、正面モニターを睨んだ。《ファルカタ》との高速戦闘中は、誤射の危険性からか介入してこなかった敵《トゥルス》部隊が、手にした火器を《アキーア》に集中させる。
『下がれ!援護する!』
 そういう声が聞こえて、エティはさらに機体を後退させた。ガーディアン・タイプのAM1を駆る、第八中央拠点防衛部隊の機体が三機、視界を塞いだ。三層のリアクティブ・アーマーを持つ大型シールドが敵機の火線を受け止める間、《アキーア》は傍の岩陰に転がり込む。エティが撤退するというのは、このエリアが敵に占拠されてしまうのと同義だ。だから、辛うじて戦線を維持できている間に、またあの戦場に飛び出さなければならなかった。
 そんな時、サイドモニターに開いた個人チャットウィンドウから、聴き飽きた声が響いて耳朶を撃った。
『エティ、挟撃!』
「…!了解!」
 エティの姉であり、サンダードッグの部隊員であるケイト・ナートだった。どうやら、重装甲タイプの《ファルカタ》を追ってきたらしい。
 再びスロットルを開いてペダルを踏み、大型シールドと遮蔽物を盾にしながら撤退戦を繰り広げる味方の前に踊り出る。ケイト・ナートの機体、Csカスタムはすぐに視認できた。右前方の少し高い丘の上。
 それと対面するように機体を動かし、二機の《ファルカタ》の視線を集める。その隙に、近接戦闘装備のAM1前衛部隊と防衛部隊が飛び出し、《トゥルス》部隊の各個撃破へと移行する。即座にそれを阻止しようとするランス装備の《ファルカタ》に誘導ミサイルを全弾叩きつけて、ミサイルポッドを爆砕ボルトでパージ。《アキーア》に高速で迫った重装型の《ファルカタ》は、ケイトの57.5mm速射型ロングライフルに足止めされる。このライフルは、連射速度こそエティの45mmライフルに劣るものの、射程と威力に関しては通常の40mm狙撃ライフルとはものが違う。威力分の反動は、クライス力学を応用した特殊フレームで殺す。これも、ケイトのCsにしかできない芸当だ。
 乱戦状態になったのを確認してか、二機の《ファルカタ》が進路を《アキーア》に向けて、加速する。エティのAWは高次元にカスタムされたものだといえども、瞬発力ではそれ以上のスペックを誇る《ファルカタ》二機を相手にすれば、一瞬で決着がついてしまう。
 エティは息をつく暇もなく、左腕に備えられた特殊高分子砲をタッチパネルで呼び出した。左腕のボックスがスライドし、四角形の砲口がむき出しになる。そのボックス内部は、オーバーヒート寸前の超高温まで、クライス粒子によって一瞬で加熱された。これは、高分子の粘性弾を高速連射して、敵機の主に関節部を固めて不具合を起こす兵装だ。全身の微細な慣性移動を何らかの方法で制御することによってかの瞬発力を引き出しているのだろう、というジンとマイの結論から導き出された、対《ファルカタ》用兵装だ。だが、これは試作兵器であるが故、また敵が高速で動くため、集中しなければヒットしない。よって、粘性弾発射後のエティは周囲に注意を向けられず、結果的に無防備になる。それでも、ケイトを信じるしかないのだ。
「こいよ!」
 距離は二百メートルを切っている。警戒しながら、二機のAWがランダムな軌道で迫る。まだ。まだ、あとコンマ五秒。まだ。
「そこっ!」
 敵機の進行方向へと横っ飛びしながら、左腕から粘性弾を拡散発射する。高温の高分子が、理解不能な行動をとった《アキーア》に戸惑いを見せた一瞬の隙に、重装型の《ファルカタ》に大量に付着した。しかし。
(遅すぎた!?)
 すでに、ランス装備の《ファルカタ》が正面モニターを埋め尽くしていた。ケイトのポジションからでは、どうしてもランス装備とともに《アキーア》を貫通してしまう位置だ。このような時に限って、過去の記憶が蘇ってくる。エティはそれを強引に押しのけて、ペダルとスティックを操作した。次の瞬間、衝撃と轟音がエティを打ち据えた。
「ぐぎぎぎ…!!」
 何が起きたかもわからぬまま、とりあえず動く手足を使って、感覚通りに機体を制御しようとする。実際には、《アキーア》はコックピットを狙ったランスの一撃を辛うじて躱し、その左肩に直撃を受けたに留まった。《ファルカタ》のスピードを載せた鋭いランスは、《アキーア》の左肩を一瞬で粉砕し、パーツをそこらじゅうに弾けさせた。自動慣性制御と場ランサーが作動するも、機体がおおきくよろけている。それが、エティの操縦でその場に踏みとどまった。ランス装備の《ファルカタ》はそのスピードのまま後方に離れていった。
 頭の中身を掻き回されるような感覚が落ち着く。だがそれと同時にいやな気配を感じて、エティは顔を上げた。見ると、モニターいっぱいに映った、重装型の《ファルカタ》が、関節をぎちぎちと言わせながらブレードを振り上げているところだった。エティはあわてて左後ろに機体を捩ったが、その右拳が握った45mmライフルともども綺麗に切断された。ペダルを踏んでスティックを引き、後退。敵は、受けた粘性弾を危険視してか、急停止していたようで、ブーストは焚いていなかった。それでも無理に関節を動かして、傷ついた《アキーア》を追う。しかし、重装型がブレードを振り上げたとき、その胴体がばらばらに弾け飛んだ。ケイトの狙撃だ。
勝利を喜ぶまもなく、接近警報が鳴る。振り返ると、ランス型が急速接近してきている。しかし、今度は状況が違う。ケイトの正確な射撃が二発、三発と降り注ぎ、《ファルカタ》は後退を余儀なくさせられる。
「死ぬかと思ったよ」
 エティは、ケイトに向かってそう呟いた。


    *


「こっちこそ、ヒヤヒヤしたわよ」
 ケイトは、そう言いながらも、ひとまず弟が生きていたことに安堵した。57.5mmライフルを《ファルカタ》に向かって連射しながら、次の作戦を思案する。エティの《アキーア》は左腕を失い、右腕のマニュピレーターも失っている。今度は、自分だけで仕留めなければならない。
 そこで、後方から信号弾が上がった。赤。救援求む、の意味だ。それも、ケイトが先ほどまでいたエリアだった。「腰抜け」と毒づきながらも、《ファルカタ》を倒す算段を立てる。だが、こうしているうちに、向こうが全滅してしまうかもしれない。かといって、エティを《ファルカタ》の餌とするのはナンセンスだ。舌打ちで個人チャットのアラーム音が聞こえずに、聞こえてきたエティの声に反応が遅れる。
『ケイトねえ、速く行って』
「え…?」
『僕は大丈夫。“とっておき”がある。だから速く向こうに』
 そう言うと、モニター上のブルーパールの機体は、《ファルカタ》に向かって加速する。反論しようと思ったが、やめた。エティがあの声を発するときは、こちらの言うことを聞かないのだ。しかし、その声は同時に、勝ち目があるときの強気の声だということは知っていた。
「了解」
 短く返すと、ケイトは反対方向に愛機を向けた。



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プロフィール

R-YA&ふぇいすふる

Author:R-YA&ふぇいすふる
ロボット大好きの二人組。
イラストも描きます。
ガンダム、BIONICLE、アーマードコア、フルメタ、ブレブレ、ラインバレル等、好きなロボットは多岐に渡ります(笑)
仮面ライダーも好きな奴らです。
現在小説は修行中です!

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